シミュレーションソフトウェアの高速化・高機能化

事例 - プログラムへの機能拡張・新機能追加

密度汎関数法(DFT)による計算機能の作成(筑波大学様)
分子動力学計算アプリGENESISのQM/MM計算機能整備(理化学研究所様)
タンパク質の2次元射影電子密度計算プログラムの開発と高度化(理化学研究所様)
構造解析ソルバに適用するサブルーチンの作成(プラント設計会社様)
大規模並列環境における通信最適化(理化学研究所様)

密度汎関数法(DFT)による計算機能の作成(筑波大学様)

本業務では、分子科学計算ソフトウェアOpenFMOを対象として、密度汎関数法(DFT)による計算機能を作成しました。

OpenFMOは、FMO(fragment-molecular-orbital)法による大規模分子の電子状態計算を目的として開発された分子科学計算ソフトウェアです。FMO法では系全体を複数の小さなフラグメントに分割し、各フラグメントおよびフラグメント対の計算結果から、全系の物理量を近似的に求めます。
一般的に、電子状態計算の計算コストは系のサイズの少なくとも3乗に比例して増大します。FMOでは個々のフラグメント(モノマー)およびフラグメント対(ダイマー)の電子状態計算のみを行うため、系のサイズが大きくなるほど計算コストを抑えることができ、大規模分子の電子状態計算に非常に有効です。

FMOは様々な電子状態計算法に適用できますが、OpenFMOに実装されているHF (Hartree-Fock)法は電子相関効果を無視しているため近似精度が悪く、創薬やものづくりといった応用分野で要求される定量性を満たしません。DFTは「系の電子エネルギーは電子密度分布の汎関数として表現できる」という前提から導かれ、基本方程式となるKS (Kohn-Sham)方程式はHF方程式と類似の非線形固有値方程式として表現できます。DFTはHF法で無視されている電子相関効果を考慮しているため精度が高く、HF法とほぼ同等の計算コストで、電子状態のより正確な求解が可能です。

HF方程式とKS方程式はそれぞれ以下のように表現できます

HF方程式とKS方程式

KS方程式の求解に必要な交換相関ポテンシャルvxcの行列要素は、数値積分を用いて計算します。交換相関ポテンシャルの厳密な形は知られておらず、様々な近似モデルが提案されています。

本業務では、分子科学計算で広く用いられている3種類の近似交換相関ポテンシャル(B3LYP, PW91, PBE)をOpenFMOに実装し、FMO-DFTによるエネルギー計算を可能としました。交換相関ポテンシャルを求める際の数値積分にはEuler-Maclaurin-Lebedev法を使用し、数値積分モジュールはMPIとOpenMPを用いてハイブリッド並列化されています。

スカイライン法によるオーダリング後に記憶が必要となる行列の要素

▲ FMO2-B3LYP/6-31G(d)による全エネルギーの計算結果

最適なオーダリング手法を適用した時に記憶が必要となる要素

データおよび画像提供:筑波大学計算科学研究センター 教授 重田育照 様

分子動力学計算アプリGENESISのQM/MM計算機能整備(理化学研究所様)

理化学研究所で開発された分子動力学計算アプリ「GENESIS」に、量子化学計算アプリの実行インターフェースを実装し、QM/MM(古典力場と量子化学のハイブリッド)計算を可能にしました。

■ 対応する量子化学計算アプリ:Q-Chem, Gaussian09

本業務の成果により、GENESISおよび上記いずれかの量子化学計算アプリを用いた以下の計算が可能になりました。

■ QM/MM法によるタンパク質の構造最適化、分子動力学シミュレーション

■ QM/MM法によるタンパク質の反応経路探索および経路に沿った自由エネルギープロファイルの評価

タンパク質内におけるchorismate異性化反応の解析結果

タンパク質の2次元射影電子密度計算プログラムの開発と高度化(理化学研究所様)

  • ・分子の原子座標を入力とし、任意方向への2次元射影近似電子密度を計算するプログラムを開発しました。
  • ・入力はPDB (protein data bank) 形式をサポートし、広範な生体分子に対応します。電子顕微鏡画像等と比較することで、タンパク質分子の構造評価等への適用が可能です。
  • ・MPI並列化により、複数ノードを用いた巨大な分子の取り扱いを可能としました。

タンパク質の2次元射影電子密度計算プログラムの開発と高度化(理化学研究所様) 80s-ribosomeの2次元射影電子密度図

▲ 80s-ribosomeの2次元射影電子密度図

構造解析ソルバに適用するサブルーチンの作成(プラント設計会社様)

  • ・Fortranで記述された構造解析ソルバに適用可能ないくつかのサブルーチンを作成しました。
  • ・オリジナルコードでは長方形要素しか扱えませんでしたが、任意形状の四角形要素および三角形要素が扱えるようにし、複雑な形状の解析を実施可能とました。
  • ・バイリニア材料が扱えるような仕様とし、材料の非線形性を模擬したシミュレーションを実施可能としました。
  • ・固定境界円盤のたわみ分布を解析し、理論解に対して精度の高い解析が可能であることを確認しました。

構造解析ソルバのコード整理と大規模並列行列ソルバ導入による高速化(建築メーカー様) イメージ画像

大規模並列環境における通信最適化(理化学研究所様)

領域分担型の並列計算における通信の効率化をテーマに研究開発に取り組み、通信時間の短縮に成功しました。
領域分割された各ドメインを適切なプロセスにマッピングすることで通信を効率化し、最大8,192コアを用いたウィークスケーリングにおいて、スケーラビリティの大幅な改善を達成しました。

通信最適化による通信時間の短縮効果 イメージ画像

▲ 通信最適化による通信時間の短縮効果

シミュレーションソフトウェアの高速化・高機能化を支援するツールのご紹介

Super Matrix Solver 高速・高安定型マトリクスソルバライブラリ

Super Matrix Solver(スーパーマトリクスソルバ)は連立一次方程式求解用のソフトウェアライブラリです。熱流体解析や構造解析などの数値計算で用いられる連立一次方程式の求解計算を高速かつ安定的に実行することを目的として、宇宙航空研究開発機構(JAXA)で開発された基礎理論をベースにヴァイナスにより開発された製品です。
大規模かつ求解の困難な連立一次方程式を高精度かつ短時間で安定的に解くことができます。反復法・直接法・境界要素法専用ソルバなど複数の製品で構成されており、様々な分野でご利用可能です。

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高速・高安定型マトリクスソルバライブラリ Super Matrix Solverロゴ

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